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「世界中のどこかの片隅で」
○ 安祥の心理学談義序説 この論考は、ユング心理学、それを独自展開した河合隼雄の派生理論に、生物学的な性分化を加味した独自理論です。 1. 基礎論■ Ontogenesis of Sexual Differentiation (生物学的な性分化) この"Ontogenesis"は、発生学的起源の意味です。 肉体的にはたとえば、 ・男性に残る女性器の痕跡(例:前立腺小室;膣)。 ・女性に残る男性器の痕跡(例:クリトリスの位置)。 があります。 知ってますか? 男性の場合、膣は退化します。女性器の大陰唇に当たる部分は縫合され、幼児期には陰嚢に傷跡が残ったままです。 そう考えると、女性の性器も男性のそれと対応することがわかります。゜ ところで、話がやや脱線しますが、胎内で胎児は、ミミズ→カエル→トカゲ類(これは形態イメージであり系統樹的には正確な例えではない)→ネズミ→サル→ヒトの系統発生を辿ります。 しかも、それぞれ消失するのではなく、機能は継承されていく。ミミズは胃腸になりますし、カエルは四肢と肺を、サカナはドパミン報酬系を残します。さらにトカゲ類は、ヒトの子宮内で羊水ごと包む羊膜として残ります。 つまり、われわれ人間は、そうした継ぎ接ぎによるキメラなんですね。
■ Psychic Sexual Differentiation (精神的な性分化) さて、生物学的な性分化を、精神に当てはめるとどうなるでしょうか。誰もそれがないとは言い切れないでしょう。 ここで言う下意識とは、無意識の中の比較的意識に近い領域にいる者のことです;The Surface of the Unconscious。 ■ まとめ これにより、精神現象すなわちテーゼのあとに、なぜアンチ・テーゼが来得るのか?という意識の流れも説明できます。 もし、自我意識ひとつであった場合、定立のあとにすぐ否定が来るのはおかしなことですよね? たとえば、会議の場合、Aが意見を述べたあとにBが意見を言います。もしAが意見を述べたあとすぐに自分でそれを否定するのであれば、それは会議ではなくなります。プレゼン? 意識の流れが会議のようなものであるならば、主格と副格を設定することにより、この矛盾が解消されます。 そして、ことはそれだけではなく、論理的な解明が難しい精神病や症例も、これにより説明できるのです。 2. 応用論■ 解離性同一性障害(多重人格) ダニエル・キースの「24人のビリー・ミリガン」が有名になったのがキッカケで、この問題を考え始めました。 なんらかの精神的ショックまたはプレッシャーで、殿様が耐えられなくなり、控えの間に下がってしまう。殿様は控えの間から居室の様子を窺える位置にはあるが、殿様に替わって影武者を演じなければならなくなったサブが、入れ替わり立ち代わり登場する。 傷は、皮膚を割き、肉を切り、骨まで達することがあります。精神的な傷も同様で、人体の組成ならぬ精神の組成を露わにすると考えることができます。 多重人格は特殊な例ですが、精神病の仕組みを解明する上では適しています。 ■ 統合失調症(精神分裂) 統合失調症は、今では躁うつ症まで含む拡散された病態となっており、使うに面倒な概念なので、ここでは精神分裂を扱います。 多重人格もそうですが、精神分裂もまた、ショックやプレッシャーにより、精神がブレた状態です。 ここでは、多重人格における殿様と控えの間というたとえは不適切となります。 これまでの文脈で説明すれば、魂とアニマ/アニムスの対立になります。 ようようここで、ユング心理学らしきものが出てきましたね。しかし、これは河合隼雄バージョンの考え方で、ユング心理学そのものは、こんな解釈はとっていません。 さて、具体的な症状はなにか? 幻聴/幻覚があります。 これは白昼夢ともいわれますが、具体的には覚醒意識のなかに夢意識が混入する事象をさします。病理のなかで、主格とサブとの境界線が薄れ、ほぼ対等の立場になります。 脳学的には覚醒時にメラトニンが誤差用し、夢意識が混入すると解釈できます。 統合失調症発症時には、ドパミンが大量に分泌されるといわれています。それは同時に脳内麻薬物質としても知られ、簡単に言えばアッパー系の麻薬と同様です。 また、同時にエンドルフィンも分泌されることが知られていますが、これは選択的に抗ストレス作用をもたらすでしょう。 そして、睡眠を司るメラトニンですが、ストレスによるコルチゾールの上昇が、メラトニンの分泌を乱す要因となると言われます。 従来知られているより複雑な機序を用いましたが、ここまでやらないと、幻覚の説明にはならないと思うのです? いいですか? 現実の風景に、夢意識によって作られた現像がスポットで現れ、もしそれが人間なら喋りさえするわけです。統合失調症者がそれを現実のこととはき違えてもムリはありません。というより、それをリアルタイムで幻覚かどうか判断することはむつかしいです。 このような積み重ねにより、段々と現実離れした妄想を、理性の力によって修飾するわけです。 「おれは正常だ。気なんか狂っちゃいねえ」と統合失調症患者が口走ったとしても、それは当然の実感なわけで、理性自体は正常のままなんですね。理性が正常稼働するからこそ、幻覚を現実と受け取った場合、それに整合性を与えてしまうわけなんです。 ちなみに、老齢になってから、認知症になると、統合失調症のような症状を示す場合があります。レビー小体型認知症とか、遅発性統合失調症、前頭側頭型認知症など。しかし、仕組みは変わりせん。 そこのあなた、統合失調症なんて自分には関係ないと思っていませんか? 認知症の発症率 65歳〜69歳 1.5% 程度 75歳〜79歳 10.4% 程度 80歳〜84歳 22.4% 程度 85歳〜89歳 44.3% 程度 90歳以上 64.2% 程度 これに家族による介護、職業的介護者を含めると、結構関係者は多くなりましょう。 お気をつけて! 次の具体的症状としては、人格分裂があげられます。 これは本来はサブとして閾下で働くアニマ/アニムスが、自律性を持って独立する症状です。 これも傷口がパックリ開いた状況であらわれるのですが、難敵となります。 幻聴/幻覚を作り出している自律性は、こいつだからです。 そのクセこいつは時としてホワイトナイトとしても現出しますが、その裏面で、自我が自殺しようが破滅しようが全く斟酌しない攻撃をしかけます。 こわいですね? ブルブルっ。 些末な具体例も書けますが、ここは端折って筆を先に進めましょう。 さらには憑依があります。 これは霊の憑依として知られた現象のことです。 もはや溶解した精神の膜は防護壁の役目を果たさず、サブが身体に介入できる状態になっています。 精神病理学では、憑依症候群と呼ばれます。例としては、映画の「エクソシスト」があります。 通りすがりに触れれば、させられ体験(作為体験): 自分の行動や考えが、自分の意志ではなく外部の力によって支配されていると感じる体験。統合失調症の中核的な症状の一つ。 も、同様の機序によるものです。これは関係妄想を指示と受け取り、行動してしまうものです。「電波がおれに命令する」みたいな? こうした過酷な体験により、辛くも正常を保っている統合失調症者の理性が崩壊する憂き目が出てきます。 >自殺か、廃人か。廃人とは、多重人格症で述べたような、自我が控えの間に引っ込んだまま、二度と表に出てこない状態ですね。 ■ LGBT これには、胎児期のホルモンと性自認の形成が関わると考えられます。基礎論で述べたような「精神の性分化」ですね。 よく知られているように、胎児期の早い段階で、母体からのホルモンシャワーによって性別が決まります。 そして、それには性器が決定するプロセスと、脳が性分化する段階と、二段階があります。並行稼働するプロセスではないのです。 男性ホルモン(アンドロゲン)の役割: 胎児期に脳が大量のアンドロゲン(男性ホルモンの総称)に曝露されると、脳は男性型に分化する傾向があるとされています。曝露がない、または少ない場合は女性型に分化します。 暴露とは、さらされるという意味ですね? トランスジェンダーの仮説: 性自認が身体の性と反対になるトランスジェンダーの人々は、性器の分化が完了した後、脳の性分化の段階で、何らかの理由で性器と逆の性別のホルモン曝露を受けた(または曝露が不十分だった)ために生じるという仮説があります。 そして、妊婦がしかるべきタイミングで強いストレスにさらされた時、それが起こる可能性が指摘されています。 ゆえに、性同一性障害は遡って胎児期に原因があると考えられ、本人にはなんらの責任もありませんが、それにより人知れぬ苦しみを抱えることになります。 他のレズビアン、ゲイ、バイセクシャルも、原理的には同根でしょう。 多様性が持つsufferingってやつですかね? |